ファウスト ゲーテ







  外廓の内側に沿える巷



石垣の中に作り込めたる龕(がん)に、受苦聖母の祈願像あり。その前に花瓶。グレエトヘンそれに新なる花を挿す。



  グレエトヘン

(いたみ)おおきマリア様
どうぞお恵深く、お顔をこちらへお向(むけ)遊ばして、
わたくしの悩(なやみ)を御覧なされて下さいまし。

お胸を刃に貫かれておいでなされ、
ちぢの悲(かなしみ)をお覚(おぼえ)あそばしながら、
御愛子(おんまなご)の死を見そなわしていらっしゃいます。

天にいます父をお見上(みあげ)なされて、
御子(おんこ)と御身との悩のために、
(なげき)のみ声を空へお送(おくり)なさいます。

わたくしの骨々に痛(いたみ)
いかに徹(とお)るかを、
誰が覚えてくれましょう。
(あわれ)な胸が何を案じ、何のためにわななき、
何をほしがっておりますか、
それを御承知なさるのはあなたばかりでございます。

どこへまいりましても、
胸のここがどんなにか
せつなく、せつなく、せつのうございましょう。
人目がないと思う度に、
胸が裂けるかと思う程、
泣いて、泣いて、泣き通します。

さし上げまするこの花を
けさわたくしが折った時、
窓の前の植木鉢が
わたくしの涙で濡れました。

わたくしの部屋の内へ
朝日が明るくさし込みます時、
わたくしはもう床の上で
悩に沈んでおりまする。

どうぞわたくしが恥と死とを逃れますように。
痛おおきマリア様、
どうぞお恵深く、お顔をこちらへお向遊ばして、
わたくしの悩を御覧なされて下さいまし。







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