永井荷風 日和下駄 一名 東京散策記






日和下駄



一名 東京散策記



永井荷風








東京市中散歩の記事を集めて『日和下駄』と題す。そのいはれ本文のはじめに述べ置きたれば改めてここには言はず。『日和下駄』は大正三年夏のはじめころよりおよそ一歳あまり、月々雑誌『三田文学』に連載したりしを、この度米刃堂(へいじんどう)主人のもとめにより改竄(かいざん)して一巻とはなせしなり。ここにかく起稿の年月を明(あきらか)にしたるはこの書板(はん)成りて世に出づる頃には、篇中記する所の市内の勝景にして、既に破壊せられて跡方もなきところ尠(すくな)からざらん事を思へばなり。見ずや木造の今戸橋(いまどばし)は蚤(はや)くも変じて鉄の釣橋となり、江戸川の岸はせめんとにかためられて再び露草(つゆくさ)の花を見ず。桜田御門外(さくらだごもんそと)また芝赤羽橋向(むこう)の閑地(あきち)には土木の工事今まさに興(おこ)らんとするにあらずや。昨日の淵(ふち)今日の瀬となる夢の世の形見を伝へて、拙(つたな)きこの小著、幸に後の日のかたり草の種ともならばなれかし。
  乙卯(いつぼう)の年晩秋


荷風小史




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