ゲーテ詩集 生田春月訳




制限


わたしは知らない、この狭苦しい世の中で
何がわたしの気に入るのかを
何がやさしい魔の紐でわたしを捉へるかを
わたしは忘れる、忘れたい
いかに不思議に運命がわたしを導くかを
そしてああ、わたしは感ずる、遠くに近くに
わたしにまだ沢山のものが用意されてゐるのを
おお、それが間違つたものでないように!
いまわたしに何が残されてゐよう
生命の力に充たされまた包まれて
静かな現在に未来の望みを得るよりは!





希望


わたしの手がける此の仕事
それを成就するとは何たる幸福!
おお、どうぞ途中で疲れぬやうに!
さうだ、それは空しい夢ではない
いまは此の樹は一もとの幹にすぎないが
やがては実をも結ばう、影をもささう





心配


この同じ軌道をおなじやうに
めぐることはもうやめるがよい!
許せよ、おお許せよ、わたしのやり方を
与へよ、おお与へよ、わたしに幸福を!
逃げ去るべきか?勇気を出すべきか?
さうだ、絶望はもうたくさんだ
若しわたしを幸福にしたくないのなら
心配よ、わたしを賢くせよ!





所有物


わたしは知つてゐる、抑へも出来ず
わたしの心から湧き出して来る
また好運の手がいい折りを見て
底の底までわたしに味はさせる
この思想といふものを外にしては
わたしの所有物(もちもの)はないことを





リナに


愛する人よ、この詩集が
いつかまたあなたの御手に渡つたら
ピアノにむかつておかけなさい
あの友逹が後(うしろ)に立つてゐた時のやうに

鍵板の上にすばやく指を走らせて
それから書物(ほん)を御らんなさい
読んではいけない!ただお歌ひなさい!
この頁(ペエヂ)はみんなあなたのものだ

ああ、どんなに悲しくわたしを見るであらう
白い上に黒く浮き出たその文字は
あなたの口から神聖化されて
心をやぶるその歌は!







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