ゲーテ詩集 生田春月訳











〜〜 雑簒


    その品物はどんなに雑多でも
    見本を見ればすぐわかる!





マホメット頌歌


見よ、岩間の泉を
星かげのやうに
その喜びに輝くを
心やさしい精霊は
雲に聳えた岩の間の
繁る葉かげに
その見やしなふ
血気にはやるその子供は
雲のなかから大理石の
岩の上へ飛び下りては
天にむかつて
歓呼する

山の窪みを貫いて
色さまざまの小石を追ひ
はやくも頭領(かしら)の威を帯びて
その同胞(はらから)の泉を
連れて行く

谿(たに)に下れば、その息吹に
その足おとに
花もひらき
牧場も蘇へる

けれど日蔭の谿(たに)にも
その膝に巻き附いて
媚びある眼つきで見る花んいも
引留められないで
蛇のやうにうねりながら
平野の方へおし迫る

やがて小川の数々も
仲間に入るままに
銀に輝き平野に入れば
平野とともに輝きわたり
平野から来た河も
山から来た川も
歓呼して言ふ『同胞よ!
同胞よ、おまへの同胞を連れて行け
おまへの古い父親の
あの永遠の大海へ!
腕をひろげて我等を待てど
ああ!その古い父の腕は
そのあこがれてゐる子供を
抱かうと聞いてゐる甲斐もなく
満目荒涼たる沙漠にて
渇いた砂は我等を吸ひ
天の日は我等の血をすすり
丘は我等を遮りとめて沼とする
同胞よ、我等をこの平野から
我等をこの山から連れて行け
おまへの父のところまで!』

『ぢや、みんな来たまへ!』 –
かう言つて彼は一層水嵩(みかさ)を増して
仲間中からその君主(きみ)
押し戴かれる!
さうして凱旋とともに流れて行く
あまたの国々に名を与へ
あまたの都市(みやこ)を踏み分けて

やまずたゆまず流れ行く
輝く塔の頂きも
大理石の宮殿(みや)
その功業(いさを)をもあとにして

大船巨船をアトラスは
その巨大な肩に担ふ
その頭上には颯々と
無数の流旗(はた)が翻(ひるがへ)
彼の威力を示しつつ
かうして彼はその同胞を
その愛人を、その子等を
歓呼とともに連れて行く
待ちかねてゐた母の胸へ





水の上の精霊の歌


人間の霊魂(たましひ)
水のやうだ
天から来つて
天にのぼり
またもくだつて
地にかへり
永遠にそれを繰返す

高く嶮しい
絶壁から
清い光と流れ出て
滑かな岩のおもてに
飛び散つては
霧をただよはし
またそれを軽くをさめて
草かげを
さらさらと
谷間に流れ落ちる
(いはほ)そびえて
行手をはばめば
焦立(いらだ)たしげに泡立つて
岩から岩へ躍つて
淵へくだる

河床(かはどこ)の平らな野辺は
音をひそめて忍び行き
滑かな湖水に入れば
その面(おもて)には
ありとある星宿(ほし)が宿る

風はやさしい
波の愛人だ
風は泡立つ波を
底からまぜ返す

人間の霊魂(たましひ)
おまへは水に似てゐる!
人間の運命よ
おまへは風に似てゐる!






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