ゲーテ詩集 生田春月訳








〜〜 エピグラム


    深遠な意味を気軽に言ふところに
    かうした贈物の価値はある





少女の望み


ほんとに、ひとりのお婿さまが
わたしのためにあつたなら!
なんてまあいいことでせう
お母さまと呼んで貰へたら
それにお仕事をさへしてゐたら
学校へ行かなくつてもいいんだし
いろいろ差図が出来るうへ
女中を叱つてやることも出来
好きな店から
好きな着物は選べるし
舞踏会へは出られるし
自由に散歩も出来るもの
お父さまやお母さまに
何一つお訊ねしなくても





叫び


    伊太利語から

ある日わたしは娘を追ひかけて行つた
ふかい森の奥までも
さうして彼女の頸を抱くと『あら!』と言つて
彼女はおどした『声を立てますよ』

そこでわたしは意地になつて叫んだ『いいとも!
二人の邪魔をする奴は殺してやる!』 –
『しツ』と彼女は囁いた『静かになさいよ!
誰かがあなたのお声を聞くといけません!』





長太息


ああ、もつとお金も出来たらう
こんなに目的も変らなかつたらう
こんなに馬鹿にもならないし、無駄な思ひもなかつたらう
またもつともつと幸福(しあはせ)であつたらうに –
この世の中に酒さへなかつたなら
女の涙といふものさへなかつたなら!





思ひ出


    男

おまへはまだあの時のことを覚えてゐるか
二人がひとつ心になつたあの時を?

    女

わたしがあなたに逢はなかつたら
どんなに日が長かつたでせう

    男

それからどうだ!二人で出逢つてね
今思ひ出しても嬉しいよ

    女

わたし逹がお互に迷ひこんだのね
本当に美しい時でしたのね





白状


    甲

このひどい奴、さあ正直に言へよ
君は沢山の失錯(しくじり)を見附けられたらう!

    乙

さうさ!だがおれはまたうまくごまかしたよ

    甲

どうしてね?

    乙

    うん、人のするやうにしてさ

    甲

どんな風にやり出したんだね?

    乙

なに、また新しい失錯(しくじり)をやつたのさ
そこで奴等は忘れたのさ
古い失錯(しくじり)を忘れてしまつたのさ





総体


気に利いたやさしい伊逹者(カヴアリイル)
何処へ行つても歓迎される
彼はうまい頓智と冗談とで
たくさんの女を迷はした
だが彼に拳と力とが欠けてゐたならば
一たい誰が彼を保護してくれるだらう?
さうして彼に臀部(おしり)がないならば
どうしてこの気高い男はすわられよう?





適合


樽のあるところに葡萄は実る
濡れたところに雨は降る
鳩のところに鳩は飛ぶ
螺旋(らせん)は螺旋止にぴつたりはまる

栓は徳利をたづねてまはり
宿賃はお客の財布をねらふ
なんでも動きのあるものは
どの道一しよになりたがる

花粉が花粉に出逢ふのも
みな神様のこころざし
そこで娘と若い衆は
春が来たとて馴れ染める






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