與謝野晶子 晶子詩篇全集





我歌





求めたまふや、わが歌を。

かかる寂(さび)しきわが歌を。

それは昨日(きのふ)の一(ひと)しづく、

底に残りし薔薇(ばら)の水。

それは千(ち)とせの一(ひと)かけら、

砂に埋(うも)れし青き玉(たま)。







憎む





憎む、

どの玉葱(たまねぎ)も冷(ひやゝ)かに

我を見詰めて緑なり。



憎む、

その皿の余りに白し、

寒し、痛し。



憎む、

如何(いか)なれば二方(にはう)の壁よ、

云(い)ひ合せて耳を立つるぞ。







悲しければ





堪(た)へ難(がた)く悲しければ

我は云(い)ひぬ「船に乗らん。」

乗りつれど猶(なほ)さびしさに

また云(い)ひぬ「月の出を待たん。」

海は閉ぢたる書物の如(ごと)く

呼び掛くること無く、

しばらくして、円(まる)き月

波に跳(をど)りつれば云(い)ひぬ、

「長き竿(さを)の欲(ほ)し、

かの珊瑚(さんご)の魚(うを)を釣る。」







緋目高(ひめだか)





鉢のなかの

活溌(くわつぱつ)な緋目高(ひめだか)よ、

赤く焼けた釘(くぎ)で

なぜ、そんなに無駄に

水に孔(あな)を開(あ)けるのか。

気の毒な先覚者よ、

革命は水の上に無い。







涼夜(りやうや)





星が四方(しはう)の桟敷に

きらきらする。

今夜の月は支那(しな)の役者、

やさしい西施(せいし)に扮(ふん)して、

白い絹団扇(うちは)で顔を隠し、

ほがらかに秋を歌ふ。







卑怯





その路(みち)をずつと行(ゆ)くと

死の海に落ち込むと教へられ、

中途で引返した私、

卑怯(ひけふ)な利口者(りこうもの)であつた私、

それ以来、私の前には

岐路(えだみち)と

迂路(まはりみち)とばかりが続いてゐる。







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