ゲーテ詩集 生田春月訳



羊飼ひ


なまけ者で通つた羊飼ひがあつた
ほんとにひどい寝ぼすけで
朝から晩まで寝てばかり

一人の娘が彼の心をとらへた
そこでこの馬鹿な男は
食気(くひけ)もなくなり睡気(ねむけ)も失せた!

遠いとこまでかけ歩き
夜は星かげを数へた
泣き悲しむ身となつてしまつた

ところで娘が彼の願ひを容(い)れたので
すべてはもとの通りになつて来た
渇きも、食気(くひけ)も、眠たさも





別れ


この眼で別れを告げませう
とても口では言へぬゆゑ!
堪へられない、とても堪へられない!
これでももとは一人前の男子(をとこ)であつたのに
恋のたのしい典物(かた)さへも
今は嘆きの種となる
おまへの接吻(きす)の冷たさよ
おまへの握手の力なさ

そつと盗んだその接吻(きす)
つねにはどんなによかつたらう!
その嬉しさははつ春の日に摘み取つた
菫のやうであつたものを

けれどこれからはもうおまへのために
花輪に薔薇も摘みはせぬ
春は春でも、フレンツヘン
わたしばかりは秋となる!





美しい夜


今わたしはこの小舎を棄てて行く
わたしの恋しい人の住つてゐる家(うち)
足音を忍ばせて歩いて行く
くらい寂しい森なかを
月は藪や樫の樹の間を洩れて来る
微風はほのかに吹き渡る
樺の樹は枝をゆるがせて
大さう甘い匂ひを蒔き散らす

この美しい夏の夜の
この涼しさの楽しさよ!
おお、夢みるによいこの静けさ
本当に心も幸福で一杯になる
その楽しさは味はひ尽せない位だ!
だが天よ、わたしはおまへにやる
こんないい夜をいくらでも
あの娘(こ)がわたしにその夜の一つでもくれるなら





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