ゲーテ詩集 生田春月訳





自箴(二章)


    その一

ああ、人間は何を求めたらいいのだらう?
ぢつと落着いてゐた方がいいのだらうか?
後生大事に自分を守つてゐた方がいいのだらうか?
いろいろやつてみた方がいいのだらうか?
小さな家を建てたがいいのだらうか?
天幕の中で暮したがいいのだらうか?
かたい岩を信じてゐたらいいのだらうか?
かたい岩さへふるへるものを

一人にいいからとて皆によくはない!
人はみな自分のする事をよく見てし
またよく場処を見てから立止れ
そして誰でも倒れないために立つてゐる

    その二

卑怯な考へ
気遣ひな躊躇
柔弱な不決断
不安の愁訴が
どうして不幸を救はうぞ
汝を自由にするものぞ

あらゆる暴力に
敢然として抗つて
かつて身を屈せず
力強く構へてゐたならば
神々はおのづと
助けてくれる





凪ぎ


深い静けさは水中にこもり
海は身動きもせずにやすんでゐる
船頭はさも心配らしく
滑かな水面を見廻してゐる
何処にもそよとの風もない!
恐ろしいやうな死の静けさ!
見わたすかぎり
たつ波もない





幸福な航海


霧は散つて
(そら)は晴れ
風信(エオルス)の神は
心配の紐をほどく
微風はそよぎ
船頭は働いてゐる
(はや)く!疾(はや)く!
波は切られて
遠方は近くなり
はや陸(をか)が見える!





この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">