ゲーテ詩集 生田春月訳





五月の歌


自然は荘麗に
わたしを照らす!
太陽は輝く!
野は笑ふ!

花は咲き出る
枝ごとに
鳥はさへづる
木立から

歓びと楽みは湧く
人の胸から
おお地よ、おお太陽よ!
おお幸福よ、おお快楽よ!

おお恋よ、おお恋よ!
あの山にかかつてゐる
朝の雲のやうに
黄金なすその美しさ!

爽かな野に
おまへは祝福を埀れて
この世はすつかり
花の霞となる

おお少女よ、少女よ
わたしはおまへを愛するよ!
おまへの眼の輝くことよ!
おまへはわたしを愛するよ!

こんなに雲雀は愛する
歌と空とを
朝の花はまた
空の匂ひを

わたしはおまへを愛する
熱い血をおどらせて
おまへはわたしに青春と
喜ばしさと勇気とを

あたらしい歌によつて
踊りによつて与へてくれる
永遠に幸福であれ
そしてわたしを愛してくれ!





描かれた紐につけて


小さな花を、小さな花びらを
親切な若い春の神々は
ふざけながら薄い紐の上に
軽い手つきで蒔いてくれる

微風よ、これをおまへの翼にのせて
わたしの愛する人の着物に織り込めよ!
すると彼女はいそいそとして
鏡のまへに立つて行く

薔薇にすつかり蔽はれて
自分も咲き初(そ)めた薔薇のやう
たつたひと目を、かはいい人よ!
するとわたしはすつかり酬ひられる

この胸の思ひを汲み取つて
わたしのその手にお貸しなさい
さうしてふたりを結ぶこの紐は
弱い薔薇の紐ではないやうに!





黄金の頸飾りにつけて


おまへにこの紙片は一つの鎖を齎したがつてゐる
それは大層曲りくねることが上手で
何百とも知れぬ小さな輪をこしらへて
おまへの頸にまつはらうと望んでゐる

この馬鹿の望みをかなへておやりなさい
こいつは無邪気で厚かましくない
昼間は小さな飾りとなり
(ばん)にはおまへに投げ出される

けれど誰かがもつと厳しく強くしめる
あの鎖をおまへに持つて行かうとも
わたしはおまへを怒りはせぬよ、リゼッテよ
おまへがちよいと思案をするならば





ロットヘンに


多くの喜びや、多くの悲みや
多くの心配の群れ騒ぐ中で
わたしはおまへを思ふ、おおロットヘン、我等二人はおまへを思ふ
静かに夕やけの照つてゐるなかで
おまへが我々に親しく手を差出した時
壮麗な自然の膝もとで
よく拓(ひら)かれた野の上で
愛する心にそつと被せかけられたその蔽ひを
おまへが取除けてくれた時のことを

わたしがおまへを誤解しなかつたのは気持がよい
直ぐはじめて会つた時からして
口もとの心からの表情を見て
おまへを本当のいい子だと呼んだのは

静かに安らかに狭いところで育てられてゐると
我々はいきにあり世間へ投げ出される
数限りない波が我々を洗ひ去り
凡てのものは我々の心を奪ひ、あるひは気に入つたり
あるひは腹立たせたりする、さうして絶えず
直ぐ不安になる気持あ動揺する
我々は感ずる、そしてその感じたことは
はげしい浮世の波に洗ひ去られる

わたしは知つてゐる、我々の胸を
多くの希望、多くの苦痛の横(よこぎ)るのを
ロットヘン、誰が我々の思ひを知らう?
ロットヘン、誰が我々の心を知らう?
ああ、それを知つてくれる人があつたなら
誰かの心に同感が充ち溢れたなら
自然のすべての苦痛と喜びとを
親しく二重に感じられたら
そこで屡々あたりを見廻して探すけれど
駄目だ、何処もかしこもみな閉ぢられてゐる
かうして人生の一番楽しい時は
動乱もなく安息もなしに過ぎてしまふ
さうしておまへの永遠の不愉快にまで
昨日おまへを引き寄せたものが今日は突放す
おまへをいつも欺いて来た世間に対して
おまへの苦みの時、おまへの幸福の時
知らぬ顔して澄ましてゐた世間に対して
おまへは愛情を注ぐことが出来るであらうか?
見よ、精神は今やうちに閉ぢこもつて
そして心は — 戸を閉めてしまふ
かうしてわたしはおまへを見出し、おまへに向つて行つた
『おお彼女は愛される価値がある!』と
わたしは叫んで、おまへに清い天福を祈つた
その恵みは今やおまへの女友逹によつておまへに与へられる






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