ゲーテ詩集 生田春月訳



秋の思ひ


わが葡萄酒よ、青々と
その棚にそうて
わたしの窓に這ひのぼれ!
葡萄の房よ、ふさふさと
重り合つてふくらんで
もつと早く、もつとゆたかにみのれ!
母の日影は別れにも
なほおまへを育んでくれ
空の恵みのやしなひの
風はおまへを吹きめぐり
月のやさしい息吹は
おまへを涼しくする
そしてああ!この眼からは
永遠に力づける
愛の涙が溢れ出て
おまへを湿(うる)ほす





やみまなき恋


雪に、雨に
風にむかつて
谷あひの水気をくぐり
霧をとほして
ただ先けへ先きへと!
やすむ時なく!
むしろ苦痛に
身を打ちたい
人生の多くの喜びに
堪へて行くよりは

心から心へ伝はる
すべての愛情が
ああ、なぜこんなに
苦痛の種になる!

いつそ逃げ出さうか?
森へ行かうか?
すべて無益だ!
人生の王冠は
やすみなき幸福は
恋よ、おまへに外ならぬ!





羊飼ひの嘆きの歌


むかうの高い山の上に
わたしは千度も彳んで
牧杖に身をもたせ
下の谷間をながめやる

それからまた家畜について行くと
犬はわたしに代つて番をする
わたしは山を下りて行く
どうしたわけやら自分も知らないで

すると野原は見るかぎり
美しい花が咲き乱れてゐる
わたしはその花を折つてみる
誰にやらうといふあてもなく

すあして嵐が起ると雨風を
わたしはそつと木蔭に避ける
むかうの戸口はやつぱり閉つてゐる
だがこれもみな悲しい夢だ
あの家の屋根の上には
虹がかかつてゐる!
だがあの人はもう行つてしまつた
遠くの国へ行つたのだ

遠くの国へはるばると
海さへ越えて行つたのだ
さきへお行き、羊たち、さきへお行き!
羊飼ひはいま悲しいのだ





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