ゲーテ詩集 生田春月訳




亡霊の挨拶


古いお城の高い塔の上に
英雄の気高い霊が立つてゐて
舟が下を通つて行く毎に
速く走れと命令する

『見ろ、おれの筋肉は強かつた
おれの心はきつく烈しかつた
この骨には騎士(さむらい)の気骨があつた
またこの盃は一杯に充たされてゐた

おれは半生を嵐のやうに過して来て
半生を安楽の中に送るのだ
そしておい、そこを行く人間の舟
進んで行けよ、いつまでも!』





頸にかけた黄金の心臓に


今なほわたしの頸にかけてゐる
汝消えてしまつた喜びの紀念よ
おまへは我々ふたりの心の紐より長持するか?
おまへはふたりの恋の短い日を長くしてくれるか?

リリよ、わたしはおまへから逃げて行く!
だがやつぱりおまへの紐にくくられて、知らぬ他国を
遠くの谷や森を通つて行かねばならぬ!
ああ、リリの心はそんなに早く
わたしの胸から離れはせぬ

(いまし)めの紐とたち切つて
森へ帰つた鳥のやうに
彼は縲絏(るいせつ)の恥辱(はぢ)を引きずつてゐる
やつぱりその紐の切れはしを
彼は昔の自由な鳥ではない
既にもう誰れかのものであつたのだ





憂愁の楽み


乾かすな、乾かすな
永遠の恋の涙を!
ああ、ただ半ば乾かされた眼にのみ
いかに荒涼と、いかに死んで此世は見えるよ!
乾かすな、乾かすな
不幸なる恋の涙を!






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