ゲーテ詩集 生田春月訳





いつでも何処でも


山の洞穴(ほらあな)深く押入れ
空高く雲について行け
ミユウズの神は小川と谷とに
繰返し繰返し呼びかける

(あたら)しい花のひらくたび
あたらしい歌が生れ出る
時の流れはざわめき去れど
四季はいつでも繰返る





ネポムック聖者の逮世


    一八二〇年五月十五日、カルルスバッドにて
灯火(あかり)は流れに漂つてゐる
子供たちは橋の上で歌つてゐる
鐘は、小さな鐘は寺院(おてら)から
祈念に恍惚に調子を合せてゐる

灯火は消える、星は消える
かくて我等の聖者の霊も解けてしまふ
打ち明けられたいろんな罪業を
聖者の霊は告げはしない
漂へ、灯火(あかり)よ!遊べ、子供たち!
子供も合唱よ、おお歌へ!歌へ!
さうして露ほども言ふのぢやない
何が星を星まで連れて行くのかを





相互に


どこにすわつてゐるかあのひとは?
どうしてあんなに喜んでゐる?
離れてゐてもその人を
しつかりだいてゆすぶつてゐる

きれいな籠にあのひとは
一羽の小鳥を飼つてゐる
さうして外へ出してやる
いつでも自分で気がむくと

小鳥はあのひとの指をつついたり
また脣をつついたり
飛んで翔(かけ)つてゆくけれど
またその傍へかへつて来る

さあおまへも急いで帰るがよい
それがこの世のならはしだもの
おまへが娘を愛するなら
娘もおまへを愛しよう





泥坊


おれの家(うち)にや扉口(とぐち)がない
おれの扉口(とぐち)にや家(うち)がない
そしているでも品物(もの)もつて
しきりに出たり入つたり

おれの台所(だいどこ)にや竈(かまど)がない
おれの竈(かまど)にや台所(だいどこ)がない
炙つて見たり煮て見たり
一人のためにおれのために

おれの寝床にや寝台がない
おれの寝台にや寝床がない
だがおれより楽しく寝る人を
ひとりもおれはまだ見ない

おれの穴蔵は高見にある
おれの物置は底にある
上から底までおれのもの –
そこに倒れておれは寝る

それから起きるとおれの身は
その日もやつぱりおなじこと
おれの土地にやすまゐがない
おれのすまゐにや土地がない





いらいらしさ


絶えず果てなき世界にむかひ
国をへめぐり海ぞひに
限りも知れぬ空想は
岸辺をあちこち往来(ゆきき)する!
いつも経験はあたらしく
心はいつも心配だ
苦痛は青年の食べものだ
涙は幸福の頌歌(ほめうた)





『遍歴時代』をもつて


遍歴時代ははじまつた
旅人の歩みは覚束ない
歌ひも祈りもしないけれど
路が疑はしくなり出すと
狭霧の中で厳しい眼を
自分と、愛人の心に向ける






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