ゲーテ詩集 生田春月訳




厚顔に快活に


恋の悩みをおれの心は嗤(わら)
やさしい嘆きを、甘い苦しみを
ただきついものだけをおれは知りたい
熟した眼附を、はげしい接吻(きす)
苦痛のまじつた楽しみから
みじめな奴よ、元気づけ!
少女よ、おまへの爽かな胸に
苦痛は与へるな、ただ楽みだけを





兵士の慰め


さうさ!何の不足もあるものか
黒い娘に白い麺麭(ぱん)
ところで明日は他所(よそ)の町
黒い麺麭に白い娘!





天才的衝動


かうしておれは始終(しよつちゆう)ころがし廻る
ディオゲネス聖者のやうにこの桶を
真面目でかと思へばまた冗談で
愛からかと思へばまた憎しみから
このためかと思へばまたあのために
目的(あて)があると思へばまた目的(あて)無しに
かうしておれは始終(しよつちゆう)ころがし廻る
ディオゲネス聖者のやうにこの桶を





会合


かつてある大きな会合から
物静かな学者が家へ帰つて行つた
『どうでした?』と問はれて答へて曰く
『あれが書物だつたらわたしは読みますまい』





箴言、逆の箴言


矛盾したことを言つておれを苦しめてくれるな!
人は何か話し出す時にはもう迷ひ出してゐるのだ





どうしたところで


君が奴隷に成り下つたとて
誰も気の毒がるものはなく、ひどい目に出遭ふ
だがまた君が皆(みんな)のかしらに立てば
それも世間ぢや気に食はぬ
そこで結局君が今の通りの君でゐると
世間は君のことを案外つまらぬ男だなと言ふ





処世術


天気と長上(めうえ)の機嫌には
決して眉を顰めるな
それから美人の気儘には
決して気分を損ふな





最善の道


もし君の頭と胸とが混乱するならば
どうして今よりましな事が出来ようぞ!
最早愛しなくなり、迷はなくなつたなら
その人は墓に埋められてしまふがよい





客の選び方


おれは自家(うち)に来る客の中で
快活な男が一番好きだ
自分自身を座興に投出せないものは
たしかによく出来上つた人とはいへぬ







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