ゲーテ詩集 生田春月訳





おなじ場処でのいろんな気持


    少女

あの方を見ましたとき!
まあどんな気持がしたでせう?
あの方が此方(こちら)へお出でになると
わたしはもうどぎまぎしてしまひ
いきなりあと戻りしてしまひました
思ひ惑つたり夢見たり!
ねえ岩よ、樹立よ
わたしの喜びを隠しておくれ
わたしの幸福(しあはせ)を隠しておくれ!

    青年

あの娘を探し出したいな!
ぢつと後姿(うしろ)を見送つてゐると
ここらに隠れてしまつた
僕の方へやつて来るかと見ると
急にどぎまぎして真赤になつて
あと戻りしてしまつた
望があらうか?夢だらうか?
おい岩よ、樹立よ
おれの恋人を出しておくれ
おれの幸福(しあはせ)を出してくれ!

    煩悶者

露の置いてゐるこの朝を
ここに隠れてわたしは嘆く
わたしの寂しい運命を
多くの人には誤解されて
かうして静かな片隅に
わたしはそつと引きさがる!
おお、やさしい人よ
おお、黙つて隠しておいで
この永遠の苦しみを
隠しておいでおまへの幸福を!

    狩猟者

今日は運が向いて来て
いつにないこの獲物
これなら出て来た甲斐がある
正直な下僕(しもべ)
兎や雉子を
背負つて帰る
ここにはどうだ、まだ網に
小鳥もかかつてゐる
狩猟者万歳だ
狩猟者の幸福万歳だ!





誰が愛の神を買うのか?


町の市場(いちば)へ持ち出される
あらゆる遠い国から君逹に
搬んで来てやつたものよりも
気持のいいものはない
おお、我々の歌をお聞き
そして美しい鳥を御らん!
あれは売物ですよ

まづこの大きないたづらな
愉快な鳥を御らん!
彼は身軽に快活に
樹から藪から飛び下りて
直ぐまた上へ飛んでゐる
敢て手前味噌はこねますまい
まああの愉快な鳥を御らん!
あれは売物ですよ

さああの小さな鳥を御らん
いかにもおとなしさうにしてゐるが
実はいたづらな奴ですよ
大きな方と同じやうに
彼は大抵こつそりと
気質(きだて)のいいところを見せる
あのいたづらな小鳥を御らん!
あれは売物ですよ

まああの小さな鳩を御らん
あのかあいい雌の斑鳩(じゆずかけばと)を!
少女のやうにかあゆらしく
悧巧で作法を知つてゐる
あいつは化粧が大好きで
君逹の恋の使ひをする
あの小さなやさしい鳥は
あれは売物ですよ

敢て手前味噌をこねますまい
どうとでも試して御らんなさい
まな新しいところを好いてますよ
だがその忠実かどうかについて
証書や印判はまづ御免蒙る
鳥には翼がありますからな
なんと鳥はきれいなものでせう
なんと買物は愉快なものでせう!






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