フランツ・カフカ 城 (1〜5章)


 この瞬間、髯面のほうが手を上げて叫んだ。
「こんにちは、アルトゥール! こんにちは、イェレミーアス!」
 Kは振り返った。それではこの村の小路にもやはり人間が現われるのだ! 城の方角から二人の中背の若者がやってきた。二人ともひどく痩せていて、ぴったりした服を着ており、顔もひどく似ていた。顔の色は暗褐色だが、とがった髯がかくべつ黒いのできわ立っていた。二人は、通りがこんな有様なのに驚くほど足早に歩き、歩調をとりながら細い足を動かしていた。
「どうしたんだい?」と、髯面の男が叫んだ。叫ばなければ二人には話が通じなかったのだ。それほど足早に歩いており、立ちどまりもしなかった。
「仕事さ!」と、二人は笑いながら叫び返してきた。
「どこでだい?」
「宿屋でさ」
「私もそこへいくんだ!」と、Kは突然ほかのだれよりも大声で叫んだ。二人につれていってもらいたい、とひどく望んだのだった。この男たちと知合いになることはたいして有利だとも思われなかったのだが、元気をつけてくれるよい道づれであるようには思えた。二人はKの言葉を聞いたが、ただうなずいただけで、いき過ぎてしまった。



この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">