フランツ・カフカ 城 (1〜5章)


「むろんそうでさあ」
 だが、しばらくして男はいった。
「お望みならば、わしがあんたをわしのそりでつれていってあげるがね」
「どうかそうしてくれないか」と、Kは悦んでいった。「いくらくれろというんだね」
「一文もいらないよ」と、男がいう。
 Kはひどく不思議に思った。
「なにしろあんたは測量技師だからな」と、男は説明するようにいった。「で、お城の人というわけさ。ところで、どこへいきなさるのかね?」
「城へだよ」と、Kはすぐに答えた。
「それじゃあ、いかないよ」と、男はすぐさまいった。
「でも、私は城の者だよ」と、Kは男自身の言葉をくり返していった。
「そうかもしれないが」と、男は拒絶するようにいった。
「それじゃあ、宿屋へつれていってくれないか」と、Kはいった。
「いいとも」と、男がいった。「すぐそりをもってくるよ」
 こうしたすべては、かくべつ親切だという印象を与えるものではなく、むしろ、Kをこの家の前の広場から追っ払ってしまおうという、一種のひどく利己的で小心な、そしてほとんどひどくこだわっているような努力をしているのだ、という印象を与えるものであった。



この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">