フランツ・カフカ 城 (1〜5章)


 都合よく、亭主が宿の小さな正面階段の上に立っており、ランタンをかかげて彼のほうを照らしていた。ふと馭者のことを思い出して、Kは立ちどまった。どこか暗闇(くらやみ)のなかで咳の音がした。それが馭者だ。そうだ、近いうちにまた会うことだろう。かしこまってお辞儀をする亭主のところへ上がっていったとき、ドアの両側にそれぞれ一人ずつの男が立っているのに気づいた。彼は亭主の手からランタンを取ると、二人の男を照らした。さっき出会った例の男たちで、アルトゥールとイェレミーアスと呼ばれていた者たちだった。二人は今度は軍隊式の敬礼をした。自分の軍隊時代という幸福な時代のことを思い出しながら、Kは笑った。
「君たちは何者なんだい?」と、彼はたずね、一人からもう一人のほうへと眼をやった。
「あなたの助手です」と、二人が答えた。
「これは助手さんたちですよ」と、亭主が低い声で裏づけをするようにいった。
「なんだって?」と、Kはきいた。「君たちが、くるようにいいつけておいた、あの私が待っている古くからの助手だって?」
 二人はそうだという。
「それはいい」と、ほんの少したってからKはいった。「君たちがきたのはありがたい」
「ところで」と、Kはさらに少し間をおいてからいった。「君たちはひどく遅れてやってきた。君たちはひどくずぼらだな」
「道が遠かったんです」と、一人がいった。
「道が遠かったって?」と、Kはくり返した。
「でも私は、君たちが城からやってくるのに出会ったじゃないか」
「そうです」と、二人はそれ以上の説明はつけないでいった。
「器材はどこにあるんだい?」と、Kがきいた。
「何ももっていません」と、二人がいった。
「私が君たちにまかせた器械だよ」と、Kはいった。
「何ももっていません」と、二人はくり返した。
「ああ、なんていう連中なんだ!」と、Kはいった。「土地の測量についていくらか知っているのかい?」
「いいえ」と、二人はいう。
「でも、君たちが私の昔からの助手なら、知っているはずだよ」と、Kはいった。二人は黙っている。
「まあ、入れよ」と、Kはいって、二人をうしろから押して、家のなかへ入れた。
 それから彼らは三人そろって、かなり無口のまま食堂の小さなテーブルでビールを飲んだが、Kがまんなか、左右にその助手たちが坐った。彼ら三人のほかには、ゆうべと同じようにただ一つのテーブルが農夫たちに占められているだけだった。



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