フランツ・カフカ 城 (1〜5章)


「あんな人たちを私のところへこさせるのよ」と、フリーダはいい、怒りをこめて彼女の薄い唇をかんだ。
「どういう人なんです?」と、Kはきいた。
「クラムの使っている連中なのよ」と、フリーダはいった。「いつでもあの人はこんな連中をつれてくるの。あの人たちがいると、私の気持はめちゃめちゃにされるわ。測量技師さん、今日あなたと何をお話ししたのか、わたしにほとんどわかりませんわ。何かお気を悪くさせることがありましたなら、許して下さいね。あの連中がいるせいなの。あの人たちったら、わたしが知っているうちでもいちばん軽蔑すべき、いやな連中ですわ。それなのに、あの人たちのコップにビールを注いでやらなければならないの。あの人たちを城に残してくるようにって、これまでに何度クラムに頼んだかわからないわ。もしわたしがほかのかたたちの使っている人たちのことも我慢しなければならないのなら、あの人もわたしのことを考えてくれたかもわかりませんけど、どんなに頼んでもだめなの。あの人がやってくる一時間前には、いつでもあの連中が、まるで小屋へなだれこむ家畜のように押しよせてくるの。でも今はもう、あの人たちにふさわしい家畜小屋へほんとうにいかなければならないわ。あなたがここにいらっしゃらなければ、わたしがドアを引き開け、クラムも自分であの連中を追い出してくれるはずですのよ」
「あの連中の踊りさわいでいるのが、クラムには聞こえないんですか?」と、Kがきいた。
「そうなの。あの人、眠っているのよ」と、フリーダがいった。
「なんですって!」と、Kは叫んだ。「眠っているんだって? 私が部屋をのぞいて見たときには、まだ起きていて、机のところに坐っていたのに」
「いつでもそんなふうにして坐っているのよ」と、フリーダはいった。「そうでなければ、あなたにのぞかせたりなんかするものですか。あれがあの人の眠っている姿勢なの。城のかたたちはとてもよく眠り、ほとんど想像もできないくらいだわ。それに、あの人がそんなにたくさん眠らなかったら、この連中のことをどうして我慢できるでしょう? ところで、もうわたしが自分であの連中を追い出さなければならないわ」
 彼女は片隅にあった鞭(むち)を取り出し、たとえば小羊が跳(と)ぶようなふうに、いくらかあぶなげだが高く一跳びして、踊っている連中のところへ飛び下りた。はじめは彼らは、新しい踊り手が舞いこんだとでもいうふうに、彼女のほうを振り向いたのだった。事実、一瞬のあいだは、フリーダが鞭を落してしまいそうに見えたが、つぎに彼女は鞭をふたたび振り上げた。
「クラムのかわりにいうんだけれど、小屋へいくのよ! みんな小屋へいくのよ!」
 今や連中は、事がまじめなのだと見て取った。そして、Kには理解できないような不安を感じながら、ひしめくようにしてうしろのほうへ退き始めた。最初に退いていった何人かがドアに突きあたって、ドアが開き、夜気がさっと流れこんできた。みなはフリーダといっしょに消えてしまった。彼女は庭を横切って小屋まで連中を追い立てていったようであった。



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