フランツ・カフカ 城 (1〜5章)

第四章


 彼はフリーダとうちとけて話したかったが、助手たちが厚かましくも目の前にいるというだけで、じゃまされた。ところでフリーダは、この二人とときどきふざけたり、笑ったりするのだった。なるほど二人の助手は別に要求が多いわけではなかった。片隅の床の上に二枚の古いスカートを敷き、その上で寝起きしていた。二人がしばしばフリーダと話し合っていたように、測量技師さんのじゃまをしないで、できるだけ少ない場所しかとらぬということが、彼らのせいぜいの望みであった。このために、とはいってももちろんいつでもささやいたり、くすくす笑ったりしながらではあったが、いろいろな試みをやるのだった。腕と脚とを組み合わせたり、いっしょにうずくまったりした。薄暗がりのなかで、彼らのいる片隅はただ大きな糸玉ぐらいにしか見えなかった。ところが、残念ながら昼間のいろいろな経験からわかっていたのだが、この糸玉がきわめて注意深い観察者であり、いつでもKのほうをじっと見ているのだ。この二人が、子供らしい戯れにふけっているように見せながらたとえば両手で望遠鏡の形をつくったり、そんなふうなほかのばかげたことをやったり、あるいはこちらに目くばせしたり、主として自分たちの髭の手入れに夢中になっているように見えたりするのであっても、じつはKのほうをじっと見ているのだ。ところでその髭だが、彼ら二人にはそれがすこぶる大切であり、何度でもその長さや濃さをたがいに比べ合い、フリーダにどちらのほうがりっぱか判定してもらうのだった。Kはしばしば、ベッドからこの三人のやることをまったく冷淡にながめていた。
 これでもうベッドを離れるのに十分なだけ元気が出たと彼が感じたとき、三人は彼の世話をしようとして急いでやってきた。ところがKはまだ、彼らの手伝いを払いのけるほどには元気になっていなかった。こんな手伝いを受けることで、この三人にある種のたよりかたをすることになり、そんなたよりかたはいろいろ悪い結果を生むかもしれないのだ、と彼は気づきはしたのだが、どうもされるままになっているよりほかにしかたがなかった。それに、テーブルについて、フリーダが運んできてあるよいコーヒーを飲み、フリーダが燃やしたストーヴにあたり、熱心だが不器用な助手たちに階段を十ぺんも昇降させて洗面の水や石鹸やくしや鏡をもってこさせ、おまけに、Kが低い声でそれとわかる希望をいったからだが、小さなグラス一杯のラム酒を運ばせることは、それほど不愉快なことではなかった。



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