フランツ・カフカ 城 (1〜5章)


 Kは、立ちどまっているといっそう判断力がもてるというかのように、また立ちどまった。だが、そうはいかなかった。彼が立ちどまっていたそばにある村の教会の裏手に、――それはじつは礼拝堂にすぎなかったが、信者団を容れることができるように、納屋(なや)をつけたような恰好で拡張されたものだった――学校があった。ほんの一時的なものだという性格と、きわめて古いという性格とを奇妙に兼ねている低くて長い建物が、柵(さく)をめぐらした校庭のうしろに立っていた。その校庭は、今は雪野原になっていた。ちょうど子供たちが教師とともに出てきた。子供たちは密集して教師を取り囲み、みんなの眼が教師に向けられて、四方八方から口々に絶え間もなくしゃべり立てていたが、Kには子供たちの早口の言葉が全然聞き取れなかった。教師は、小柄で肩幅の狭い若い男だが、別に滑稽に見えるでもなく身体をひどくきちんと立て、すでに遠くからKを眼のうちに捉えていた。といっても、この教師の一団のほかには、Kがこのあたりにいるただ一人の人間だったのだ。よそ者であるKは、このひどく高圧的な小男に向って、自分のほうから挨拶した。
「こんにちは、先生」と、彼はいった。たちまち子供たちは黙った。この突然の静けさが自分の言葉を迎えるための準備となったので、教師の気に入ったようであった。
「城を見ていらっしゃるんですか?」と、教師はKが予期していたよりはものやわらかにたずねた。だが、Kがそんなことをやっているのに賛成できない、という調子だった。



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