ランボオ詩集 中原中也訳



 虱捜す女


嬰児の額が、赤い憤気(むづき)に充ちて来て、

なんとなく、夢の真白の群がりを乞うてゐるとき、

美しい二人の処女(をとめ)は、その臥床辺(ふしどべ)に現れる、

細指の、その爪は白銀の色をしてゐる。

花々の乱れに青い風あたる大きな窓辺に、

二人はその子を坐らせる、そして

露滴(しづ)くふさふさのその子の髪に

無気味なほども美しい細い指をばさまよはす。

さて子供(かれ)は聴く気づかはしげな薔薇色のしめやかな蜜の匂ひの

するやうな二人の息(いき)が、うたふのを、

唇にうかぶ唾液か接唇((くちづけ))を求める慾か

ともすればそのうたは杜切れたりする。

子供(かれ)は感じる処女(をとめ)らの黒い睫毛((まつげ))がにほやかな雰気(けはひ)の中で

まばたくを、また敏捷(すばしこ)いやさ指が、

鈍色(にびいろ)の懶怠(たゆみ)の裡(うち)に、あでやかな爪の間で

虱を潰す音を聞く。

たちまちに懶怠(たゆみ)の酒は子供の脳にのぼりくる、

有頂天になりもやせんハモニカの溜息か。

子供は感ずる、ゆるやかな愛撫につれて、

絶え間なく泣きたい気持が絶え間なく消長するのを。





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