涙
鳥たちと畜群と、村人達から遐((とほ))く離れて、
私はとある叢林の中に、蹲((しやが))んで酒を酌んでゐた
榛((はしばみ))の、やさしい森に繞られて。
生ツぽい、微温の午後は霧がしてゐた。
かのいたいけなオワズの川、声なき小楡((こにれ))、花なき芝生、
垂れ罩((こ))めた空から私が酌んだのは――
瓢(ひさご)の中から酌めたのは、味もそつけもありはせぬ
徒((いたづら))に汗をかゝせる金の液。
かくて私は旅籠屋(はたごや)の、ボロ看板となつたのだ。
やがて嵐は空を変へ、暗くした。
黒い国々、湖水々々(みづうみみづうみ)、竿や棒、
はては清夜の列柱か、数々の船著場か。
樹々の雨水(あめみづ)砂に滲(し)み
風は空から氷片を、泥池めがけてぶつつけた……
あゝ、金、貝甲の採集人かなんぞのやうに、
私には、酒なぞほんにどうでもよいと申しませう。
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