ランボオ詩集 中原中也訳



 涙


鳥たちと畜群と、村人達から遐((とほ))く離れて、

私はとある叢林の中に、蹲((しやが))んで酒を酌んでゐた

榛((はしばみ))の、やさしい森に繞られて。

生ツぽい、微温の午後は霧がしてゐた。

かのいたいけなオワズの川、声なき小楡((こにれ))、花なき芝生、

垂れ罩((こ))めた空から私が酌んだのは――

瓢(ひさご)の中から酌めたのは、味もそつけもありはせぬ

徒((いたづら))に汗をかゝせる金の液。

かくて私は旅籠屋(はたごや)の、ボロ看板となつたのだ。

やがて嵐は空を変へ、暗くした。

黒い国々、湖水々々(みづうみみづうみ)、竿や棒、

はては清夜の列柱か、数々の船著場か。

樹々の雨水(あめみづ)砂に滲(し)み

風は空から氷片を、泥池めがけてぶつつけた……

あゝ、金、貝甲の採集人かなんぞのやうに、

私には、酒なぞほんにどうでもよいと申しませう。





この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">