ランボオ詩集 中原中也訳



 最も高い塔の歌


何事にも屈従した

無駄だつた青春よ

繊細さのために

私は生涯をそこなつたのだ、

あゝ! 心といふ心の

陶酔する時の来らんことを!

私は思つた、忘念しようと、

人が私を見ないやうにと。

いとも高度な喜びの

約束なしには

何物も私を停めないやう

厳かな隠遁よと。

ノートルダムの影像(イマージュ)をしか

心に持たぬ惨めなる

さもしい限りの

千の寡婦((くわふ))等も、

処女マリアに

祈らうといふか?

私は随分忍耐もした

決して忘れもしはすまい。

つもる怖れや苦しみは

空に向つて昨日去(い)つた。

今たゞわけも分らぬ渇きが

私の血をば暗くする。

忘れ去られた

牧野ときたら

香(かをり)と毒麦身に着けて

ふくらみ花を咲かすのだ、

汚い蠅等の残忍な

翅音(はおと)も伴ひ。

何事にも屈従した

無駄だつた青春よ、

繊細さのために

私は生涯をそこなつたのだ。

あゝ! 心といふ心の

陶酔する時の来らんことを!





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