冬の思ひ
僕等冬には薔薇色の、車に乗つて行きませう
中には青のクッションが、一杯の。
僕等仲良くするでせう。とりとめもない接唇の
巣はやはらかな車の隅々。
あなたは目をば閉ぢるでせう、窓から見える夕闇を
その顰((しか))め面を見まいとて、
かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き
愚民等を見まいとて。
あなたは頬を引ツ掻かれたとおもふでせう。
接唇(くちづけ)が、ちよろりと、狂つた蜘蛛のやうに、
あなたの頸を走るでせうから。
あなたは僕に云ふでせう、『探して』と、頭かしげて、
僕等蜘蛛奴(め)を探すには、随分時間がかかるでせう、
――そいつは、よつぽど駆けまはるから。
一八七〇、十月七日、車中にて。
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