シーザーの激怒
蒼ざめた男、花咲く芝生の中を、
黒衣を着け、葉巻咥((くは))へて歩いてゐる。
蒼ざめた男はチュイルリの花を思ふ、
曇つたその眼(め)は、時々烈しい眼付をする。
皇帝は、過ぐる二十年間の大饗宴に飽き/\してゐる。
かねがね彼は思つてゐる、俺は自由を吹消さう、
うまい具合に、臘((ママ))燭のやうにと。
自由が再び生れると、彼は全くがつかりしてゐた。
彼は憑((つ))かれた。その結ばれた唇の上で、
誰の名前が顫へてゐたか? 何を口惜(くや)しく思つてゐたか?
誰にもそれは分らない、とまれ皇帝の眼(め)は曇つてゐた。
恐らくは眼鏡を掛けたあの教父、教父の事を恨んでゐた、
――サン・クルウの夕べ夕べに、かぼそい雲が流れるやう
その葉巻から立ち昇る、煙にジツと眼(め)を据ゑながら。
〔一八七〇、十月〕
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