ランボオ詩集 中原中也訳



 キャバレ・ールにて



午後の五時。

五六日前から、私の靴は、路の小石にいたんでゐた、

私は、シャルルロワに、帰つて来てゐた。

キャバレ・ールでバタサンドヰッチと、ハムサンドヰッチを私は取つた、

ハムの方は少し冷え過ぎてゐた。

好い気持で、緑のテーブルの、下に脚を投出して、

私は壁掛布(かべかけ)の、いとも粗朴な絵を眺めてた。

そこへ眼の活々とした、乳房の大きく発達した娘(こ)が、

――とはいへ決していやらしくない!――

にこにこしながら、バタサンドヰッチと、

ハムサンドヰッチを色彩(いろどり)のある

皿に盛つて運んで来たのだ。

桃と白とのこもごものハムは韮の球根(たま)の香放ち、

彼女はコップに、午後の陽をうけて

金と輝くビールを注いだ。

〔一八七〇、十月〕




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