食器戸棚
これは彫物(ほりもの)のある大きい食器戸棚
古き代の佳い趣味(あぢ)あつめてほのかな材((かし))。
食器戸棚は開かれてけはひの中に浸つてゐる、
古酒の波、心惹くかをりのやうに。
満ちてゐるのは、ぼろぼろの古物(こぶつ)、
黄ばんでプンとする下着類だの小切布(こぎれ)だの、
女物あり子供物、さては萎んだレースだの、
禿鷹の模様の描(か)かれた祖母(ばあさん)の肩掛もある。
探せば出ても来るだらう恋の形見や、白いのや
金褐色の髪の束(たば)、肖顔(にがほ)や枯れた花々や
それのかをりは果物(くだもの)のかをりによくは混じります。
おゝいと古い食器戸棚よ、おまへは知つてる沢山の話!
おまへはそれを話したい、おまへはそれをささやくか
徐((しづ))かにも、その黒い大きい扉が開く時。
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