ランボオ詩集 中原中也訳



 『皇帝万歳!』の叫び共に贏((か))ち得られたる

 花々しきサアルブルックの捷利



三十五サンチームにてシャルルロワで売つてゐる色鮮かなベルギー絵草紙

青や黄の、礼讃の中を皇帝は、

燦たる馬に跨つて、厳(いか)しく進む、

嬉しげだ、――今彼の眼(め)には万事が可(よ)い、――

残虐なることゼウスの如く、優しきこと慈父の如しか。

下の方には、歩兵達、金色(こんじき)の太鼓の近く

赤色(せきしよく)の大砲(ほづつ)の近く、今し昼寝をしてゐたが、

これからやをら起き上る。ピトウは上衣を着終つて、

皇帝の方に振向いて、偉(おほ)いなる名に茫然自失(ぼんやり)してゐる。

右方には、デュマネエが、シャスポー銃に凭(もた)れかゝり、

丸刈の襟頸(えりくび)が、顫へわななくのを感じてゐる、

そして、『皇帝万歳!』を唱へる。その隣りの男は押黙つてゐる。

軍帽は恰((あたか))も黒い太陽だ!――その真ン中に、赤と青とで彩色された

いと朴訥なボキヨンは、腹を突き出し、ドツカと立つて、

後方部隊を前に出しながら、『何のためだ?……』と云つてるやうだ。

〔一八七〇、十月〕




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