ランボオ詩集 中原中也訳



 いたづら好きな女


ワニスと果物の匂ひのする、

褐色の食堂の中に、思ふ存分

名も知れぬベルギー料理を皿に盛り、

私はひどく大きい椅子に埋まつてゐた。

食べながら、大時計(オルロージュ)の音を聞き、好い気持でジツとしてゐた。

サツとばかりに料理場の扉(と)が開くと、

女中が出て来た、何事だらう、

とにかく下手な襟掛をして、ベルギー・レースを冠つてゐる。

そして小さな顫へる指で、

桃の肌へのその頬を絶えずさはつて、

子供のやうなその口はとンがらせてゐる、

彼女は幾つも私の近くに、皿を並べて私に媚びる。

それからこんなに、――接唇(くちづけ)してくれと云はんばかりに――

小さな声で、『ねえ、あたし頬(ほつぺた)に風邪引いちやつてよ……』

シヤルルロワにて、一八七〇、十月。




この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">