ランボオ詩集 中原中也訳





     附録



 失はれた毒薬(未発表詩)


ブロンドとまた褐(かち)の夜々、

思ひ出は、ああ、なくなつた、

夏の綾織(レース)はなくなつた、

手なれたネクタイ、なくなつた。

露台(ルコン)の上に茶は月が、

漏刻((ろうこく))が来て、のんでゆく。

いかな思ひ出のいかな脣趾(くちあと)

ああ、それさへものこつてゐない。

青の綿布(めんぷ)の帷幕(とばり)の隅に

光れる、金の頭の針が

睡つた大きい昆虫のやう。

貴重な毒に浸されたその

細尖(ほさき)よ私に笑みまけてあれ、

私の臨終(をはり)にいりようである!





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