このおもひ何とならむのまどひもちしその昨日(きのふ)すらさびしかりし我れ
おりたちてうつつなき身の牡丹見ぬそぞろや夜(よる)を蝶のねにこし
その涙のごふえにしは[#「えにしは」は初出では「ゑにしは」]持たざりきさびしの水に見し二十日月(はつかづき)
水十里ゆふべの船をあだにやりて柳による子ぬかうつくしき(をとめ)
旅の身の大河(おほかは)ひとつまどはむや徐(しづ)かに日記(にき)の里の名けしぬ(旅びと)
小傘(をがさ)とりて朝の水くみ[#「水くみ」は初出では「水くむ」]我とこそ穂麦(ほむぎ)あをあを小雨(こさめ)ふる里
おとに立ちて小川をのぞく乳母が小窓(こまど)小雨(こさめ)のなかに山吹のちる
恋か血か牡丹に尽きし春のおもひとのゐの宵のひとり歌なき
長き歌を牡丹にあれの宵の殿(おとど)妻となる身の我れぬけ出でし
春三月(みつき)柱(ぢ)おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪
いづこまで君は帰るとゆふべ野にわが袖ひきぬ翅(はね)ある童(わらは)
ゆふぐれの戸に倚り君がうたふ歌『うき里去りて往きて帰らじ』
さびしさに百二十里をそぞろ来ぬと云ふ人あらばあらば如何ならむ
君が歌に袖かみし子を誰と知る浪速の宿は秋寒かりき
その日より魂にわかれし我れむくろ美しと見ば人にとぶらへ
今の我に歌のありやを問ひますな柱(ぢ)なき繊絃(ほそいと)これ二十五絃(げん)
神のさだめ命のひびき終(つひ)の我世琴(こと)に斧(をの)うつ音ききたまへ
人ふたり無才(ぶさい)の二字を歌に笑みぬ恋(こひ)二万年(ねん)ながき短き
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