舞姫
人に侍る大堰(おほゐ)の水のおばしまにわかきうれひの袂の長き
くれなゐの扇に惜しき涙なりき嵯峨のみじか夜[#「みじか夜」は初出では「みぢか夜」]暁(あけ)寒かりし
朝を細き雨に小鼓(こつづみ)[#ルビの「こつづみ」は初出では「こづつみ」]おほひゆくだんだら染の袖ながき君
人にそひて今日(けふ)京の子の歌をきく祇園(ぎをん)清水(きよみづ)春の山まろき
くれなゐの襟にはさめる舞扇(まひあふぎ)酔のすさびのあととめられな
桃われの前髪ゆへるくみ紐やときいろなるがことたらぬかな
浅黄地に扇ながしの都染(みやこぞめ)九尺のしごき袖よりも長き
四条橋(ばし)おしろいあつき舞姫のぬかささやかに撲つ夕あられ
さしかざす小傘(をがさ)に紅き揚羽蝶(あげはてふ)小褄とる手に雪ちりかかる
舞姫のかりね姿ようつくしき朝京(きやう)くだる春の川舟
紅梅に金糸のぬひの菊づくし五枚かさねし襟なつかしき
舞ぎぬの袂に声をおほひけりここのみ闇の春の廻廊(わたどの)
まこと人を打たれむものかふりあげし袂このまま夜をなに舞はむ
三たび四たびおなじしらべの京の四季おとどの君をつらしと思ひぬ
あてびとの[#「あてびとの」は初出では「あでびとの」]御膝(みひざ)へおぞやおとしけり行幸源氏(みゆきげんじ)の巻絵(まきゑ)の小櫛(をぐし)
しろがねの舞の花櫛おもくしてかへす袂のままならぬかな
四とせまへ鼓うつ手にそそがせし涙のぬしに逢はれむ我か
おほつづみ[#「おほつづみ」は初出では「おほづつみ」]抱(かゝ)へかねたるその頃よ美(よ)き衣(きぬ)きるをうれしと思ひし
われなれぬ千鳥なく夜の川かぜに鼓拍子(つづみびやうし)[#ルビの「つづみびやうし」は初出では「つつみびやうし」]をとりて行くまで
いもうとの琴には惜しきおぼろ夜よ京の子こひし鼓のひと手
よそほひし京の子すゑて絹(きぬ)のべて絵の具とく夜を春の雨ふる
そのなさけ今日舞姫(まひひめ)に強(し)ひますか西の秀才(すさい)が眉よやつれし
この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓