「このかたがお望みなら、そうしなよ」
この同意の言葉はほとんどKに、彼の頼みを撤回しようというという気持にさせるくらいだった。この男ときたら、ただつまらぬことにだけ同意できるのだ。ところが、Kを宿屋へいかせたものだろうか、という問題が相談され、全部の者がそれはまずいというとなると、Kはいっしょにいきたい、と強情にせがんだ。しかし、自分の頼みに対する納得のいくような理由を考え出す努力はしなかった。この家族の一同は、あるがままの彼を受け入れて、そのいうことをきかなければならないのだ。彼はいわばこの家族に対して少しも羞恥感(しゅうちかん)を抱いていないのだ。ただアマーリアだけが、彼女のまじめで、率直で、動じない、おそらくはまたいくらか鈍感でもあるようなまなざしで、彼を少しばかり、とまどいさせた。
宿屋へいく短い道のりのあいだに――Kはオルガの腕にすがって、さっき弟にされたようにほとんど引きずられていった。そのほかにはどうもしようがなかったのだ。――この宿屋はほんとうは城の偉い人たちだけのためのもので、その人たちは、何か村に用事があるときにはそこで食事をしたり、ときどきは泊ったりするのだ、ということを聞いた。オルガは、低い声で、まるで親しみをこめるようにしてKと話した。彼女といっしょに歩くことは、ほとんど弟といっしょに歩くのと同じように気持がよかった。Kはこんな快感を抑えようとしたが、それには勝てなかった。
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