むかしあるところに、田を持って、畑を持って、
この長者とおなじ村に、これはまた持っているものといっては、ふるいすきとくわとかまがいっちょうずつあるばかりという、たいへん
夫婦はだんだん年をとって、毎日はたらくのが苦しくなりました。それでもじぶんたちの
「神さま、神さま、どうぞ子どもをひとりおさずけくださいまし。子どもでさえあれば、かえるの子でも、つぶの子でもよろしゅうございます」
といって、
するとある日、きゅうにおかみさんは、からだじゅうがむずむずして、赤ちゃんが生みたくなりました。
「そらこそ
こういってさわいでいるうちに、おぎゃあともいわずに赤ちゃんが、それこそころりと、
まったくの話、この子は、石ころのようにちいさく、まるっこいので、つぶ、つぶとよばれている、たにしの子であったのです。
「つぶの子でもと申しあげたら、ほんとうに水神さまがたにしの子をくださった」
五年たっても、十年たっても、つぶの子はやはりつぶの子で、いつまでもちいさくころころしていて、ちっとも大きくはなりませんでした。毎日、毎日、たべるだけたべてあとは一日ねてくらして、ああとも、かあとも、声ひとつ立てません。
お
「やれやれ、きょうも
と、ある日、おとうさんは
するうち、ふとあたまの上で、
「おとうさん、おとうさん、そのお米はわたいが持って行くよ」
と、いう声がしました。
ふしぎにおもって、おとうさんがあおむいて見ると、
たにしの子が口をきくはずがない、なにかの
「おとうさん、おとうさん。わたいが持ってくってば」
とよぶ声がしました。口をきいたのは、やはりつぶの子だったのです。
「おとうさん、わたいはちいさいから馬をひいて行くことはできないけれど、
たにしの子がずんずんそういって口をきくと、おとうさんも、おかあさんも、ほんとうにびっくりしてしまいました。でも、この子はなにしろ
「じゃあ行っておいで」
といって、馬のおしりをたたきました。
「おとうさん、おかあさん、では行ってまいります」
たにしの子は、人間の子とちっともちがわない言葉で、そうはっきりこたえて、
「さあ出かけよう。はい、しい、しい」
と、じょうずに声をかけました。馬はひひんといなないて、ぱっか、ぱっか、あるき出しました。
でも
田のなかで草をとっていたお
だれも人のついていない馬が、ひとりであるいてきて、
「お米を持ってきたからおろしてください」
と、どなっているのがわかると、よけいびっくりしてしまいました。
「だんなさま、たにしが馬を引いてお米を持ってきました」
と、みんながいってさわぐので、主人の長者ものこのこ出てきました。そのあいだに、たにしの子はひとりではきはき、
「どうも、今日はおもてなし、ありがとうございます」
こういって、ちいさなたにしが、りっぱに、ごあいさつの
「いくら
こうおもって、長者はこのたにしを、いつまでもうちの
「たにしどの、たにしどの、お前さんをうちのむすめのむこにとりたいが、どうだね」
といいました。すると、たにしはまじめな声で、
「それはどうもありがとうございます。ではうちへ帰って、おとうさんとおかあさんに話してみましょう」
といって、さもうれしそうに帰って行きました。
たにしは帰るとさっそく、両親の
「ああ、ほんとうだとも。では、ふたりのむすめをよんで、どちらがむすこさんのおよめになるかきいてみよう」
といって、まず
「かわいいたにしどのを、お前はむこにとりたいか」
こういうと、姉のむすめは半分もきかずに、
「まあ田のなかのきたない虫っけらなんか」
と、おこった声でいって、
そこで、こんどは、
「かわいいたにしどのを、お前はむこにとりたいか」
こういうと、妹のむすめは、
「おとうさんのお
と、すなおにこたえたので、とうとう、たにしの子は長者のむこになることになりました。
長者のむすめは、たにしのおむこさんをだいじにして、その上、たにしのおとうさんやおかあさんにもしんせつにしてやりました。でもこのおむこさんはあまりちいさいので、
ある日、お天気がいいので、いつものように、帯のあいだにおむこさんをはさんで、およめさんは、お里の両親をたずねに行きました。
「どうも帯のあいだにのせられてばっかりいるのも、きゅうくつになった。すこしおりて休んでいこう」
と、およめさんにいいました。
「ではこの上がきれいで、ひろくっていいでしょう」
と、およめさんはいって、石の
「ああ、ひろい田んぼが見えて、
「それでは、いそいで行ってまいります」
およめさんは、それから石段をのぼって、お
ところで、もとの石の
もしやからすが、ついくちばしのさきでつばんで、持って行ったのではないか、どうかしてそこらの田のなかへでも、ころがって行ったのであればいいがとおもって、およめさんは田んぼのなかにはいってみました。春さきのことで田のなかは、水がじくじくわき出していて、田の草のなかから、すみれやげんげの花が、顔を出していました。
およめさんはよそ行きのきれいな着物が、どろでよごれるのもわすれて、
「つぶ、つぶ、お里へまいらぬか。
つぶ、つぶ、むこどの、どこへ行 た、
お彼岸 まいりにさそわれて、
からすのくちにつつかれな、
犬の足にふまれるな」
といいながら、田から田へとさがしてまわりました。どこへ行ってもたにしはつぶ、つぶ、むこどの、どこへ
お
からすのくちにつつかれな、
犬の足にふまれるな」
およめさんは、それでもあきらめきれないので、あいかわらず、
「つぶ、つぶ、お里へまいらぬか。
つぶ、つぶ、むこどの、どこへ行 た」
といいいい、さがしてまわるうちに、春の日はいつかつぶ、つぶ、むこどの、どこへ
「これ、これ、こんな
といいながら、いつどこからあらわれたか、光るようなうつくしいわかものが、
あたりまえの人間同士のおむこさんとおよめさんになったふたりは、あらためて水神さまのお社に、お
こうして、ちいさなたにしから
底本:「むかし むかし あるところに」童話屋
1996(平成8)年6月24日初版発行
1996(平成8)年7月10日第2刷発行
底本の親本:「日本童話宝玉集(上中下版)」童話春秋社
1948(昭和23)~1949(昭和24)年発行
入力:鈴木厚司
校正:林 幸雄
2001年12月19日公開
2011年10月22日公開
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