第六章
宿屋の前では亭主が彼を待ちかまえていた。こちらからたずねなければ、あえて話そうとはしない様子だったので、Kは、どんな用だ、ときいた。
「新しい宿を見つけましたか」と、亭主は地面を見ながら、いった。
「おかみさんに頼まれて、きいているんですね」と、Kはいった。「あんたはきっとおかみさんにたよりっきりなんだね」
「いえ」と、亭主はいった。「あれに頼まれてうかがっているわけではありません。でも、あれはあなたのためにひどく興奮し、悲しがっています。仕事ができず、ベッドに入ったきりで、たえず溜息をついたり、嘆いたりしているんです」
「おかみさんのところへいこうか?」と、Kはきいた。
「どうか、そうして下さい」と、亭主はいう。「村長のところからおつれしようとして、あそこの戸口で聞き耳を立てていたんですが、あなたがたはお話をしておられて、おじゃまをしたくなかったし、女房のことが心配にもなったので、急いで帰ってきたのでした。ところが、あれは私をよせつけませんので、あなたをお待ちするよりほかにしかたがなかったのです」
「それなら、急いでついてきたまえ」と、Kはいった。「すぐおかみさんをなだめてやるよ」
「そううまくいきさえすれば、いいんですが」と、亭主がいった。
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