フランツ・カフカ 城 (6〜10章)


 だが、Kの心をとらえ、少しばかりのぞき孔を探すことから彼の気をそらしたものは、ほんとうは彼女の言葉ではなく、彼女の姿恰好であり、この場所に彼女がいるということだった。もちろん、この娘はフリーダよりもずっと若くて、まだほとんど子供らしかった。彼女の服は滑稽だった。彼女が酒場の女給仕ということの意味について抱いている誇張された観念に合わせて、そんな身なりをしているのだ。そして、この観念は、彼女なりにもっともなのだ。というのは、彼女にまだ全然ぴったりしないこの地位は、きっと思いがけず、また不当にも、そしてほんの一時的に彼女に与えられたものにちがいなかった。フリーダがいつも帯に下げていた革の財布も、彼女にはまかされてはいないのだった。そして、彼女がこの地位に満足していないと称しているのは、思い上りにほかならなかった。けれども、子供っぽく分別を欠いてはいるが、彼女もおそらく城と関係をもっているのだろう。もし彼女のいうことが嘘でないなら、客室つきの女中だったというが、自分のもっているこの特権に気づかないで、ここで昼間を眠って過ごしているのだ。だが、この小柄でふとった、少しばかり丸い背中をした身体を抱くなら、彼女がもつ特権を奪うことはできないにしても、彼の心をゆすり、これからの困難な道を歩む元気をつけてくれるにちがいない。それなら、おそらくフリーダの場合とちがわないのではないか。いや、ちがうのだ。そのことを理解するためには、ただフリーダのまなざしのことを考えればいいのだ。Kはけっしてペーピーの身体にふれることはなかったろう。それでも彼は今やしばらく眼をおおわないではいられなかった。そんなに欲情をこめて彼女を見つめていたのだった。



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