二人は明るい台所を通っていった。そこでは、三、四人の女中がたがいに離れたままで、たまたま何かの仕事をやっていたが、Kの姿を見ると、まったく立ちすくんでしまった。台所にいてさえ、おかみの溜息をもらす声が聞こえてきた。おかみは、薄い板壁で台所と隔てられた、窓のない仕切り部屋に横になっていた。そこには、大きなダブルベッドと戸棚一つとを置くだけの余地しかなかった。ベッドは、そこから台所全体が見わたせて、仕事を監督できるように置かれてあった。それに反して、台所からは仕切り部屋のなかのほとんど何も見られなかった。そこはまったく暗くて、ただ薄桃色の寝具だけが少しばかりぼんやり浮かび出ていた。部屋のなかへ入って、両眼が慣れるとやっと、こまかなところが見わけられるのだった。
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