「あなたのところへです」と、バルナバスは前と変わらず親しげにいった。「クラムからの手紙をもってきました」
「クラムからの手紙だって!」と、Kは頭をのけぞらせながらいって、急いでバルナバスの手からその手紙を取った。
「照らしてくれたまえ」と、彼は助手たちにいった。彼らは左右からぴったり彼に身体をくっつけてきて、ランタンを高く上げた。手紙を風から守るために、Kは大きな便箋を読むためにごく小さく折りたたまなければならなかった。それから、彼は読んだ。
「橋亭宿泊中の測量技師殿。あなたがこれまでに実施された測量の仕事は、小生の多とするところであります。助手たちの仕事も賞讃すべきものであり、あなたは彼らをよく仕事にとどめておくことを心得ておられる。あなたの熱意のさめないことを! 仕事をよき成果に導くように! 中断するようなことがあれば、小生は怒るでしょう。ところで安心していただきたいが、解雇の際の報酬という問題は、近く決定されるでしょう。小生はつねにあなたに注目しているものです」
Kよりもずっとゆっくり読んでいた助手がよい知らせを祝って「万歳!」を三度高らかに叫び、ランタンを振ったときになって、Kはやっと手紙から眼を上げた。
「静かにしたまえ」と、彼はいって、バルナバスに向っては「これは誤解だ」と、いった。バルナバスは彼のいうことを理解しなかった。
「これは誤解だ」と、Kはくり返した。午後の疲れがまたもどってきた。学校へいく道はまだ遠いように思われた。バルナバスのうしろに彼の家族全体が浮かび出た。助手たちがまだ身体を押しつけてくるので、Kは二人を肘で追い払った。この二人はフリーダのところにとどまるように、とKが命令したのに、どうしてフリーダは彼らをKのところへよこしたのだろうか。帰り道はひとりでもわかっただろう。そして、ひとりのほうがこの一行といっしょよりも楽だったろう。ところで、その上、一人はマフラーを首に巻きつけていて、そのはじが風ではためき、二、三度Kの頬を打った。もう一方の助手はいつもすぐそのマフラーを、たえず動いている長い尖(とが)った指でKの顔から払いのけはしたのだが、事はよくはならなかった。二人はこうやっていききすることが気に入ったらしく、また風と夜の不安とが彼を興奮させているのだった。
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