フランツ・カフカ 城 (11〜15章)


「君たちはくびだ!」と、Kは叫んだ。「二度と君たちなんか使わないぞ」
 もちろん、二人はそんなことを承知しようとはしなかった。そして、手と足とでドアをどんどん打った。
「あなたのところへもどりたいんです、旦那?」と、彼らは叫んだが、まるでKこそ乾いた土地であり、自分たちは今にも洪水(こうずい)のなかに溺(おぼ)れようとしているとでもいうかのようだった。だが、Kは同情はせず、この我慢できないさわぎで教師がやむなく介入しないではいられなくなるのを、落ちつかぬ気持で待っていた。まもなく、予想したとおりになった。
「いまいましいこの助手たちを入れてやりたまえ!」と、教師が叫んだ。
「この連中はくびにしたんですよ!」と、Kはどなり返した。
 この言葉は欲しなかった副作用をもたらした。つまり、ただ解雇通告を出すだけでなく、それを実行するだけの力をもっているならば、その結果がどうなるか、ということを示したのだ。今度は教師は助手たちをやさしくなだめようとし、ここでおとなしく待っているように、しまいにはKが君たちをまた入れてくれるだろう、というのだった。そして、彼はいってしまった。もしKが助手たちに向って、君たちはこれで最後的にくびにしたのだ、また使うなんていう望みはほんのちょっとでもないぞ、などと叫び始めなければ、きっとそのまま静かになっていたことだったろう。Kの言葉を聞いて、二人はまたさっきのようにさわぎ始めた。また教師がやってきたが、今度はもう助手たちと交渉なんかしないで、おそらくは恐ろしい籐(とう)の棒をふるって、彼らを建物から追い出してしまった。



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