フランツ・カフカ 城 (11〜15章)


 Kはそれを利用して、フリーダに助手たちを嫌わせるようにしようとした。フリーダを自分のほうに引きよせ、ぴたりとより添って食事をすませた。もう寝にいくべきときだろう。みんなひどく疲れていた。助手の一人は食事しながら眠りこんでしまった。それがもう一人をひどく面白がらせ、Kたち二人にその眠っている男の間抜けた顔を見るようにうながそうとしたが、それはうまくいかなかった。Kとフリーダとは、それをはねつけて、高いところに坐っていた。寒さが耐えがたくなっていくうちに、二人は自分たちも寝にいくことをためらっていた。とうとうKが、もう少し火を焚(た)かなければならない、そうでないと眠ることはできない、といった。彼は斧(おの)でもないかと探したが、助手たちは一つのありかを知っていて、それをもってきた。そこで、薪小屋へ出かけていった。すぐ薄いドアは破られた。助手たちは、こんなすばらしいことはまだ体験したことがないかのように歓喜し、たがいに追いかけ合ったり、身体をつつき合ったりしながら、薪を教室へ運び始めた。まもなくそこには大きな薪の山ができた。火が焚かれて、みんなはストーブのまわりに横になった。助手たちは毛布をもらってそれにくるまろうとした。彼らにはそれで十分だった。というのは、いつも一人が起きていて、火を絶やさぬように、と取りきめができたのだった。やがてストーブのそばはひどく暖かくなり、もう毛布などはいらなかった。ランプが消され、Kとフリーダとは暖かさと静けさとにすっかり満足して、眠るために身体をのばした。
 Kが夜中に何か物音で眼がさめ、さめぎわのはっきりとしない動作でフリーダのほうを手探りしたとき、フリーダのかわりに助手の一人が自分のそばに寝ているのに気づいた。おそらく神経過敏になっているためであり、またそのために突然眼がさめることになったのだが、それはこれまでこの村で体験した最大の驚きだった。叫びとともに半ば身体を起こし、考えるまもなくその助手に拳(こぶし)の一撃をくらわせたので、助手は泣き始めた。ところでこの事情はすべてすぐにわかった。フリーダが起こされてしまったのは――少なくとも彼女にはこう思われたのだが――何か大きな動物、おそらくは一匹の猫が彼女の胸の上に跳び上がって、すぐまた逃げていったためだった。彼女は起き上がり、一本の蝋燭に火をつけて、大きな部屋全体にその動物を探した。その機会を助手の一人が利用し、しばらく藁ぶとんの味を楽しもうとして、今、ひどくその罰を受けたところだった。ところが、フリーダは何も発見できなかった。おそらく錯覚(さっかく)だったのだ。彼女はKのところへもどってきたが、その途中、まるでゆうべの話合いを忘れてしまったかのように、うずくまって泣きじゃくっている助手の髪を慰めるようになでてやるのだった。Kはそれに対して何もいわなかった。ただ助手たちに、火を焚くのをやめるように命じた。というのは、集めた薪をほとんど全部焚きつくして、すでに暑くてたまらぬほどになっていたのだった。







この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">