フランツ・カフカ 城 (11〜15章)


「まあ、なんてこと! あんたたちは猫にけがをさせたのね。これがここへやってきたご挨拶というわけね。見てごらん!」そして、Kを教壇の上に呼びつけ、彼に猫の脚を見せた。あっというまに、彼女は猫の爪でKの手の甲にかき傷をつくってしまった。爪はもう鈍くなっていたが、女教師が今度は猫のことを考えもしないでその爪をしっかと押しつけたので、引っかいたあとに血がにじんで、みみずばれになった。
「これで、仕事にかかるのよ」と、彼女はいらいらしながらいい、また猫のほうに身体を曲げた。助手たちといっしょに平行棒のうしろでこの様子をながめていたフリーダは、Kの手の血を見て、叫び声をあげた。Kは自分の手を子供たちに見せて、いった。
「ごらん、悪いいたずら猫が私にこんなことをやったんだよ」彼はもちろんこの言葉を子供たちに聞かせるためにいったのではなかった。子供たちの叫び声と笑いとはもうほかのこととはかかわりのないものになってしまっていたので、もうこれ以上のきっかけをつくったり、そそのかしたりする必要はなく、どんな言葉も子供たちの身にしみたり、彼らに影響を与えることはできなかった。女教師もこのKの侮辱(ぶじょく)に対してただちょっと横眼で答えただけで、そのほかは猫にかまいつづけていた。つまり、最初の怒りはKの手に血を流させるという仕置きでおさまったようだ。で、Kはフリーダと助手たちを呼び、仕事が始った。



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