第十六章
彼がそれから通りに出たとき、曇った夜を通して見られる限りでは、例の助手がバルナバスの家の前のずっと上のほうでいったりきたりしているのが見えた。助手はときどき立ちどまり、カーテンがかかっている窓を通して部屋のなかをランタンの明りで照らし出そうとしていた。Kはその助手に声をかけた。眼に見えるほどには驚かないで、助手は家の偵察をやめて、Kのほうへやってきた。
「だれを探しているんだね?」と、Kはたずね、脚のももの近くで手にした柳の枝のしなやかさをためしてみた。
「あなたを探していました」と、近づいてきながら助手はいった。
「いったい、君はだれなんだ?」と、Kは突然いった。というのは、相手は助手ではないように思われたのだった。相手は助手よりもふけており、もっと疲れていて、もっとしわが多いように見えたが、顔は助手よりもふっくらしていて、歩きかたも、あの関節に電気のかよっているような身軽な助手たちの歩きかたとはまったくちがっていた。その歩き方は、ゆっくりとしていて、少しびっこを引き、上品に病んでいるように見えるのだった。
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