フランツ・カフカ 城 (16〜20章)


 帳場は酒場に向かい合っていた。ただ玄関を横切っていくだけだ。おかみは電燈をつけたその帳場にすでに立って、いらいらしながらKのほうを見ていた。しかし、まだ一つじゃまがあった。ゲルステッカーが玄関で待っていて、Kと話があるというのだ。彼を振り捨てるのはやさしいことではなかった。おかみも助け舟を出してくれ、ゲルステッカーにその押しつけがましいことをしかった。
「いったい、どこへいくんだい? いったい、どこへ?」と、ドアが閉ってからも、ゲルステッカーの叫ぶ声が聞こえた。そして、その言葉は溜息と咳の音ときたなくまじり合っていた。
 暖房のききすぎた小さな部屋だった。狭いほうの壁のところに立ち机と鉄の金庫とがあり、広いほうの壁にはたんすと寝椅子とがあった。大部分の場所をとっているのはたんすだ。広いほうの壁をいっぱいにふさいでいるだけでなく、奥行が深いために部屋をひどく狭くしている。このたんすをあけるためには引き戸が三つもいる。おかみは寝椅子を指さして、Kにそこに坐るように合図したが、自分は立ち机のそばの廻転椅子に腰かけた。
「あなたは裁断を一度も習ったことがないの?」と、おかみがたずねた。
「いいえ、一度もありません」と、Kはいった。
「いったいあなたはなんなの!」
「土地測量技師です」
「いったいそれはなんなの?」
 Kはそれを説明したが、その説明はおかみにあくびをさせるだけだった。



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