とうとう彼らは一つのドアの前にきた。そのドアはほかのドアとちがってはいないが、従僕の告げるところによると、そのなかにエルランガーが泊っているのだった。従僕はKに肩の上へのせてもらい、上の開いているすきまから部屋のなかをのぞいた。
「寝ていらっしゃる」と、従僕はKの肩から下りながらいった。「ベッドの上でだ。むろん服のままでだが。でも、わしはあのかたがまどろんでいらっしゃるんだ、と思う。ここの村では、生活のしかたがちがうので、あのかたはときどきあんなふうに疲労に襲われるのだ。われわれは待たねばならんだろう。眼がさめなすったら、ベルを鳴らされるはずだ。とはいっても、あのかたが村にいらっしゃるあいだじゅう眠り過ごしてしまわれて、お目ざめのあと、すぐにまた城へもどっていらっしゃらねばならぬということがあったんだよ。あのかたがここでなさるのは、自由意志でやる仕事なんでね」
「もう今となってはむしろ終りまで眠っていらっしゃったほうがいい」と、ゲルステッカーがいった。「というのは、あのかたは眼がさめたあと、まだ少しばかり仕事をしなければならぬ時間があると、ご自分が眠ってしまったことにひどく不機嫌になられ、万事を急いで片づけてしまおうとなさるんでね。そうすると、こちらはほとんどものをいうことができんからな」
「あなたは建築用の荷の引渡しにきたんですね」
ゲルステッカーはうなずき、従僕をわきへ引きよせ、彼に何か低い声で話した。ところが従僕のほうはほとんど耳を貸さず、自分の肩までしかないゲルステッカーの頭を越えて向うを眺め、まじめな顔でゆっくりと髪毛をなでていた。
この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓