ヴィクトル・ユゴー 死刑囚最後の日


       一七

 おお、もし脱出したら、どんなにか私は野原をつっきって駆けてゆくことだろう!

 いや、駆けてはいけないだろう。駆ければ人の目について疑われる。駆けないで、頭をあげ唄をうたいながらゆっくり歩くことだ。赤い模様のある青いうわっぱりの古いのを手に入れることだ。それを着ればなかなかわからない。この付近の野菜作りたちはみなそれをつけている。

 アルクイユの近くに、一群の木立が沼のそばにあるのを私は知っている。中学のとき友人たちと一緒に木曜日にはいつもそこへ蛙を取りに行ったものだ。そこに私は晩まで隠れよう。

 夜になってまた、歩きだそう。ヴァンセンヌへ行こう。いや、川でじゃまされるかもしれない。アルパジョンへ行こう。――サン・ジェルマンのほうへ向かったほうがいいかもしれない。そしてル・アーヴルへ行き、イギリス行の船に乗りこむ。――そんなことはとにかく、ロンジュモーを通る。憲兵が通りかかる。旅行券を調べられる……。おしまいだ。

 ああ、不幸な夢想者よ、汝(なんじ)を閉じこめている三ピエの厚みの壁をまず破って出てみるがいい。死だ、死があるばかりだ!

 まだ子供のおり、ここに、このビセートルに、大きな井戸と狂人たちとを見にきたときのことを、考えてもみると、ああ!




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