ヴィクトル・ユゴー 死刑囚最後の日


       二〇

 あの獄吏は、私が彼やその部下の者らをうらむべきところはないと思っている。道理なことだ。うらみに思えば私のほうが悪いだろう。彼らはその職務をつくした。私を立派に保護した。そのうえ、私が到着の時と出発の時にはていねいだった。私は満足すべきではないか。

 この善良な獄吏は、そのほどよい微笑と、やさしい言葉と、慰撫しかつ探索する目と、太い大きな手とをもってして、まったく監獄の化身であり、ビセートルが人間化したものである。私の周囲はすべて監獄である。あらゆる物の形に監獄がひそんでいる、人間の形にも、鉄門や閂の形にも。この壁は石の監獄であり、この扉は木の監獄であり、あの看守らは肉と骨との監獄である。監獄は一種の恐ろしい完全な不可分な生物であって、なかば建物でありなかば人間である。私はそれの虜(とりこ)となっている。それは私を翼でおおい、あらゆる襞(ひだ)で抱きしめる。その花崗岩(かこうがん)の壁に私を閉じこめ、その鉄の錠の下に私を幽閉し、その看守の目で私を監視する。

 ああみじめにも、私はどうなるのであろう? どうされるのであろう?




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