ヴィクトル・ユゴー 死刑囚最後の日


       二七

 それがどんなふうになされるものか、そこではどんなふうに死んでゆくものか、それがわかっていたらまだしも! しかし恐ろしいことには、私はそれを知らない。

 その機械の名前は人をぞっとさせる。どうして私は今までそれを字に書いたり口に言ったりすることができたか、自分でもわからない。

 その十個の文字の組合せ、その風采、その顔つきは、恐るべき観念を呼び起こさせるようにできている。その機械を考案した不幸の医者は、宿命的な名前を持っていたものだ。〔断頭台は guillotine、断頭台考案の医者は Guillotin。〕

 その醜悪な名前で私が想起する形象は、漠然とした不定なものであって、それだけにまた不気味なものである。名前の一綴り一綴りがその機械の一片みたいだ。私はその各片で、異様な機械を頭のなかでたえず組み合わせたり壊したりしてみる。

 それについては誰にも一言もたずねかねるのではあるが、しかしそれがどんなものであるかもわからず、どんなふうにしたらよいかもわからないというのは、恐ろしいことだ。なんでも、一枚の跳ね板があって、うつぶせに寝かされるらしいが……。ああ、私は首が落ちる前に頭の毛が白くなってしまうことだろう!




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