ヴィクトル・ユゴー 死刑囚最後の日


       八

 私に残ってるところを数えてみよう。

 判決がくだされた後、上告のために三日間の遅延。

 重犯裁判廷の検事局で八日間の閑却。その後で彼らのいわゆる一件書類が大臣に提出される。

 大臣のところで十五日間の遅滞。大臣はその書類の存在さえ知らないが、それでも、検討後それを破毀院(はきいん)へ回付するものとされている。

 破毀院で、類別や番号づけや登録。というのは、断頭台は満員で、各自順番でしか通れないから。

 特典がほどこされないことを調べるため十五日間。

 最後に、ふつう木曜日に破毀院は開廷され、多くの上告を一挙にしりぞけ、全部を大臣の手もとに返付し、大臣は検事長に返付し、検事長は死刑執行人に回付する。三日間。

 四日目の朝、検事長代理はネクタイをつけながら考える。「この事件も片づけなくちゃなるまい。」そこで、書記代理が友人との会食か何かでさしつかえることがなければ、処刑命令の正本が作成され、書きあげられ、浄書され、送達される。そして翌日夜明け頃から、グレーヴの広場には一つの木組みが釘づけされる音が聞こえ、パリの四つ辻には呼売人が嗄(しわが)れた声をはりあげて叫ぶのが聞こえる。

 全部で六週間。あの若い娘が言ったことはもっともだ。

 ところで、私がこのビセートルの監房にやってきてから、数えるのもつらいが、少なくとも五週間、あるいは六週間たっているかもしれない。そして、三日前が木曜日だったようだ。




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