虱捜す女
嬰児の額が、赤い憤気(むづき)に充ちて来て、
なんとなく、夢の真白の群がりを乞うてゐるとき、
美しい二人の処女(をとめ)は、その臥床辺(ふしどべ)に現れる、
細指の、その爪は白銀の色をしてゐる。
花々の乱れに青い風あたる大きな窓辺に、
二人はその子を坐らせる、そして
露滴(しづ)くふさふさのその子の髪に
無気味なほども美しい細い指をばさまよはす。
さて子供(かれ)は聴く気づかはしげな薔薇色のしめやかな蜜の匂ひの
するやうな二人の息(いき)が、うたふのを、
唇にうかぶ唾液か接唇((くちづけ))を求める慾か
ともすればそのうたは杜切れたりする。
子供(かれ)は感じる処女(をとめ)らの黒い睫毛((まつげ))がにほやかな雰気(けはひ)の中で
まばたくを、また敏捷(すばしこ)いやさ指が、
鈍色(にびいろ)の懶怠(たゆみ)の裡(うち)に、あでやかな爪の間で
虱を潰す音を聞く。
たちまちに懶怠(たゆみ)の酒は子供の脳にのぼりくる、
有頂天になりもやせんハモニカの溜息か。
子供は感ずる、ゆるやかな愛撫につれて、
絶え間なく泣きたい気持が絶え間なく消長するのを。
この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓