ランボオ詩集 中原中也訳



 忍耐



或る夏の。

菩提樹の明るい枝に

病弱な鹿笛の音は息絶える。

しかし意力のある歌は

すぐりの中を舞ひめぐる。

血が血管で微笑めば、

葡萄の木と木は絡まり合ふ。

空は天使と美しく、

空と波とは聖体拝受。

外出だ! 光線(ひかり)が辛いくらゐなら、

苔の上にてへたばらう。

やれ忍耐だの退屈だのと、

芸もない話ぢやないか!……チエツ、苦労とよ。

ドラマチックな夏こそは

『運』の車にこの俺を、縛つてくれるでこそよろし、

自然よ、おまへの手にかゝり、

――ちつとはましに賑やかに、死にたいものだ!

ところで羊飼さへが、大方は

浮世の苦労で死ぬるとは、可笑((をか))しなこつた。

季節々々がこの俺を使ひ減らしてくれゝばいい。

自然よ、此の身はおまへに返す、

これな渇きも空腹(ひもじさ)も。

お気に召したら、食はせろよ、飲ませろよ。

俺は何にも惑ひはしない。

御先祖様や日輪様にはお笑草でもあらうけど、

俺は何にも笑ひたかない

たゞこの不運に屈托だけはないやうに!





この本を、全文縦書きブラウザで読むにはこちらをクリックしてください。
【明かりの本】のトップページはこちら

 
 
 
以下の「読んだボタン」を押してツイッターやFacebookを本棚がわりに使えます。
ボタンを押すと、友人にこの本をシェアできます。
↓↓↓ 

Facebook Twitter Email
facebooktwittergoogle_plusredditpinterestlinkedinmailby feather

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">